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ワカメあれこれ

古来、ワカメは庶民の食べ物
 
 奈良時代、今日の岩手県などで採っていたコンブは都では超高級品であったし、島根県の十六島(うっぷるい)産が一級品であったと言われる岩海苔(ウッ プルイノリ)も殆ど宮廷貴族の口にしか入らない貴重品であった。しかしワカメは全国的に大量に採れるし、また、島根県日御碕(ひのみさき)、山口県下関市、福岡県北九州市門司区では正月にワカメを刈る和布刈(めかり)神事を行い、神事の後では庶民もワカメを口に出来た。今日でも、味噌汁にいれたり三杯酢で和えて食べる様に、日本人とワカメは切っても切れない仲である。
 また、朝鮮半島の人々もワカメをよく食べるが、産後の肥立ちに良いとして、ワカメスープ(ミヨック)が好まれる。

コンブ科海藻の分布
 さて、19世紀のスイス人で栽培植物起源学の祖、ド・カンドル(de Candolle)が発見した現象に、植物の原産地付近では近縁種が豊富、という法則がある。例えば、小麦の研究者として世界的に有名な遺伝学者の木原均先生や田中正武先生によれば、小麦は原産地中央アジアのコーカサス地方では非常に種類が多い。また、ジャガイモやトウモロコシの原産地の南米や中米では、1つの村、1つの家族で数品種を栽培しているほど多くの品種がある(民俗学博物館・山本紀夫博士私信)。海の環境は陸上ほど変化がなく、種類数は陸 上植物より少ないが、この法則は昆布類にも当てはまる。
 褐藻類のコンブ科には約百種の海藻があって、北極海が故郷で、周辺では種類数が多いが、分布域は、北太平洋、北大西洋だけでなく、中には赤道を越えて南半球に及ぶ物もある。長さが60メートル以上にも生育するオオウキモ(マクロシスチス)はその一つで、太平洋岸のカリフォルニア南部に生育する。赤道直下の中米にはないが、地球の寒冷期に赤道を越えたのであろう、南米のペルーでまた見られ、チリー南端のホーン岬をぐるっと回り、大西洋に出て北上し、アルゼンチン中部に達し、また南アフリカ、オーストラリア南東部、ニュージーランドにまで広がった(嵯峨直恒、1993)。日本を始めアジアには見られ ないが、コスモポリタン種に近い。

ワカメの産地は極東アジア
 昆布科藻類の研究者、函館の川嶋昭二博士に依れば、日本産コンブ科の海藻は、コンブ属を含め34種類ある。コンブ属は千島、樺太、北海道、東北北部などに生育する。コンブ科の中でも人気の高いワカメは、殆ど日本全国で生育し、地方に依って味も形も様々であるが、大きくて分厚い三陸ワカメ、薄くて長い鳴門ワカメ、板ワカメにする島根のワカメなどが有名である。日本でワカメが生育しないのは、親潮(寒流)の影響の強い北海道東部と、黒潮(暖流)の影響 の強い和歌山県南部、四国・九州南部、それに沖縄である。日本の他にも、ワカメは中国の揚子江付近から山東半島、朝鮮半島南岸と東岸、さらに北上してロ シア沿海州のウラジオストックにまで分布する。朝鮮半島では、釜山近くの機張(キジャン)のワカメが特に有名である。ワカメは極東アジア特産の海藻である。
 私の推測ではあるが、コンブ属は北極海から南下し、ベーリング海かカムチャッカ半島あたりで数種のアイヌワカメ属が生まれ、千島列島を南下して北海道 に達し、さらに北海道南部か本州北部でワカメ属が生まれて様々な形態のワカメが日本全国で生まれて広がり、九州西部にまで達した後、今度は対馬海流に 乗って朝鮮半島方向へ押し上げられ、極東に広がったのではないだろうか。

ワカメの世界進出
 ところで、ワカメは1980年代からフランスのブルターニュ地方、南半球のニュージーランド、オーストラリア大陸、タスマニア島にまで分布を広げた (故三浦昭雄先生談)。日本から輸出した牡蠣(かき)の殻に、ワカメの糸状の配偶体が着いたり、日本に荷物を積んできた帰り船が安定の為に海水を積んで 帰る、その海水中にワカメの配偶体が混じり、それがヨーロッパや赤道を越えて南半球にまで広がったらしい。日本では2月頃から5月頃までがワカメの旬で あるが、季節が逆の南半球では、10月頃にワカメが採れるそうだ。
 極東アジアを出たワカメのその後はどうなっているのか?気にかかる。ワカメは極東アジアを除けば食べる習慣が無いから、ヨーロッパでも南半球でも、初 めは全く無関心で、いつ入って来たのかさえはっきりしなかった。気が付いたらワカメは大量に子供を増やしていた。それからのワカメは、食べられるけれど、増えると手に負えないキイチゴにたとえられ、全くの邪魔者扱いだそうだ。
 例えば、オーストラリアでは、他の海藻の繁殖を邪魔するので自然の生態系を乱すとか、アワビやウニを採る際に邪魔になるとか、養殖の魚や貝の網や篭に ついて困るとか、海岸に打ち寄せると美観を損ねて腐いとか言われる。漫画のサザエさんとワカメちゃんは仲の良い姉妹だが、サザエだけでなく、アワビもウニもワカメを食べるのだから、エサになる。ところが、シマジンとかラウンドアップの様な除草剤とか殺藻剤をかけてワカメを殺す実験までしている。可愛がって食べてくれれば、健康にも美容にも好いのにと思う。矢張り、ワカメ文化は極東アジア特有の文化なのである。

ワカメのメカブと生活史
 最近、スーパーマーケット等に行くと、ワカメのメカブトロロを売っている。メカブは免疫作用を強める働きがあると言われて流行り出したが、成熟したワカメの茎に出来る。正式な名称は胞子葉と言って、人間の卵巣や精巣に相当する生殖器である。
 ワカメは分類学的にコンブと近く、コンブ科で、生活史はコンブと同じである。普通、我々が食べるワカメやコンブの部分は葉状体と言い、2倍体で、染色体の数は44本である。コンブ科の中のコンブ属、アイヌワカメ属、ワカメ属の違いは、成熟後、コンブではメカブが出来ず、葉状体で減数分裂を行い半数体となるが、アイヌワカメ属では天狗のウチワのような原始的なメカブが茎の部分に出来る。更に、ワカメ属ではメカブが茎にくねくねと盛り上がってよく発達し、ここで減数分裂を行って染色体数22本の雄か雌の遊走子を作る。メカブが発達したワカメは、コンブより進化した生物である。
 メカブから泳ぎ出す遊走子は人間にはないので説明し難いが、精子か卵を作る為の、特製の半数体の泳ぐ細胞である。遊走子は、夏の間に岩の上や貝殻などに付着し、細胞が増殖して発芽し、短い糸のような雌雄別々の配偶体(精子や卵を作り出す体)を作る。秋になると、雄の配偶体の先で作られた精子が、雌の配偶体の先に作られた卵まで泳いで行き、受精してワカメの赤ちゃんが出来る。赤ちゃんは暮れか正月頃には、人間で言えば漫画のワカメチャンぐらいに成長し、冬から春にかけての冷たい海で、再び大人のワカメに成長する。一方、ワカメの葉状体の方は、夏になって水温が上昇すると枯れてしまう。
 産地によって異なるが、ワカメは冬に大きく成長し、富山では、養殖物だと四月頃、天然物は六月頃までが収穫期であるが、出雲では1ヶ月程早いし、韓国の名産地、機張(キジャン)では2ヶ月程は早い様で、2月中旬に盛んに収穫していた。
 富山県の氷見には独特の渋みのある天然のワカメが養殖を始める前にはあったが、鳴門ワカメの養殖が盛んになるにつれ、元々自然にあった氷見固有の品種が失われて行ったそうだ。幾つかの優良品種の養殖が全国的に進められるのは良いが、その土地その土地の特徴ある様々な固有品種が滅びつつある様で、些か残念でもある。

1999.10

クョスコニョ    [1] 
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