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粗食をすれば子宝が授かる 窒素は環境ホルモンでは?

万葉集と山上憶良

 高校三年の授業で、山上憶良の「銀(しろがね)も 金(くがね)も玉も 何せむに 勝れる宝 子に及(し)かめやも」(万葉集、八.三)と言う歌を木村観次先生から教わり、自分も将来は子供が沢山欲しいなと思った。幸いにも、結婚したらさしたる努力もせずに、いつの間にやら5人の娘に恵まれた。ところが世の中には、何度も産婦人科を訪ね、肉や魚、卵や白子などをせっせと食べ、神社にお参りしたり子宝の湯を訪ねたり、日夜奮闘努力しているにもかかわらず子宝に恵まれないお気の毒な夫婦もある。不妊には色々な要因があり、以下に述べる私の説がいつも当てはまる訳ではないが、今回は子宝に恵まれない夫婦に、私が大学院時代から付き合っているミカヅキモから教わった不妊治療法を紹介したいと思う。参考になれば幸いである。

ミカヅキモの結婚と人間の結婚
 ミカヅキモはアオミドロやホシミドロ同様、緑藻の中の接合藻類に属する。人間同様ミカヅキモにも雌雄の細胞があるが、形態的な差がないので、+と−で表す。+と−の細胞を別々に培養すると1日にほぼ1回分裂して倍々に増殖し、十数日経つと年頃となって、ガラスの培養器から離れ、培養液全体がトロッとして色気が出てくる。人間で言えば親離れに相当するのであろう。その後培養を続けると、60日から90日ぐらいで死滅する。従って、ミカヅキモの1日は人間のほぼ1年に相当する。
 この増殖には、他の植物同様、窒素、リン、カリなどの栄養塩が必要である。ミカヅキモの体内では、この窒素成分を利用して、遺伝に関係する核酸(DNAとRNA)や、体を構成したり酵素として重要な働きを持つ蛋白質を合成するのである。こうして年頃になった+と−のミカヅキモを混ぜ、窒素成分のない培地に移すと、接合子と呼ばれる、人間の受精卵に相当する子供を作る。
 さて、ミカヅキモが窒素を減らすとよく接合すると言う現象は、人間を含めた動物の生殖に置き換えるとどうなるであろうか。体内の成分で窒素を含む化合物は蛋白質と核酸なので、それは恐らく蛋白質や核酸の摂取量を減らす事に相当するであろう。しかし核酸は量が少ないので、主として蛋白質の摂取を減らせば、人間でも子供が出来易くなるのではないだろうか、と独身時代の私は仮説を立てた。しかし、若い独身者がいくら卓説(?)を立てて力んでみても何の説得力もなく、他人様で人体実験もかなわず、自説を確かめるすべがなく、私は悶々たる日々を送っていた。

ボランティア現れる
 ところが、思いもかけず格好のボランティアの実験台が現れた。中学・高校・大学を通じての友人で、大学を出てから東京の電気屋に勤めていたN君は、27−28才の頃、気立てが良くてとても可愛い奥さんを貰った。その彼が京都に帰って来た時、四条木屋町あたりの喫茶店で会った。大分話した後で、彼はちょっと真面目な顔になって、「結婚してしばらく経つのになかなか子供が出来へん。濱田、何かええ方法はないか」と聞くのである。そこでまず私は、さも親切そうな顔をして、「では、君の液を顕微鏡で見て上げよう」と申し出た。ところが彼は、笑って固辞する。「遠慮せんでもええで」と何度か勧めたが、ただ笑うばかりでうまくいかない。仕方がないので、かねてからの自説を彼に紹介して、「しばらくの間は夫婦ともに肉、魚、卵など、蛋白質の摂取を少量に控え、御飯と野菜を多く採って、後は自然にしてたら子供は出来る筈や」と助言した。彼は、「え?、ほんまかいなー?」とか何とか言って半信半疑の態であったが、「試してみるわ」と言って別れた。
 その話はしばらく忘れていたが、数カ月すると彼から、「濱田!子供が出来たんや!」と電話がかかってきた。勿論、彼は喜んでいたが、私も自説の正しさが実証されたのでとても嬉しかった。
 以来、私が相談に乗った夫婦で、効果のない人もあったが、数カ月以内に妊娠した人は10組を越える。富山でも何組かの夫婦に助言して子供が生まれ、感謝された。私自身も自分の仮説を実践したところ、結婚して十月十日ほどで長女が生まれた。幸か不幸か、我々は貧乏で粗食のせいか、その後も子供が出来なくて悩んだ事はただの一度もない。

貧乏人の子沢山
 考えてみれば、私の理論の正しさは、「貧乏人の子沢山」という古い諺に最もよく言い表されていると思う。日本でも、戦前は勿論の事、戦後は芋の蔓(つる)まで食べ、スウドンを食べて飢えを凌いだ。その結果、食糧難の戦争直後はベビーブームとなり、団塊の世代がポコポコと生まれた。
 作物でも成長期には窒素肥料をたっぷりやるが、花を咲かせ実を付ける時期には窒素肥料をやらない。米でも麦でも大豆でも皆そうである。勿論、個人差はあるが、人間でも敏感な人は、生殖期に窒素分が過剰だと、生殖に関係する器官や細胞が影響を受け、子供が出来にくくなるのではないだろうか。
 現在の日本は飽食の時代と言われ、子供がいなかったり少ない夫婦が増えている。多くの経済的先進国では、出生率が極度に低下し、徐々に人口が減少する傾向がある。逆に、経済的な意味で発展途上国と言われる国の多くは人口爆発に悩んでいる。出生率の低下に関しては、避妊法の発達とか家の狭さのような、物理的、化学的な面も大きいが、しかし、蛋白質や核酸の過剰摂取も生殖に影響を与える可能性があるのではないだろうか。

窒素は環境ホルモンでは?
 最近、琵琶湖に注ぐ農業排水の水質を調べてみたら、窒素がある濃度以上になると、窒素の量にほぼ反比例して、ミカヅキモの接合子形成率が下がった。と言う事は、ミカヅキモだけでなく、自然界で性を持っている総ての野生生物は、富栄養、とりわけ窒素分の過剰摂取により、生殖が妨げられている可能性があるのかも知れない。
 それだけにとどまらず、富栄養、特に窒素分の過剰摂取は、人間だけでなく地球上の全生物にとって、子供が欲しいとか可愛いとか、またもっと深い意味で、博愛の精神とか、命を慈しむ気持ちの様に、生命・生物にとって本質的で欠くことの出来ない考え方や心情に徐々に影響を与え、繁殖力を弱める一種の環境ホルモン(内分泌撹乱物質)として働き、生命の存続を脅かしているのではないだろうか。
 憶良には「瓜(うり)食(は)めば子ども思(おも)ほゆ 栗食(は)めばまして思(しの)はゆ・・」(万葉集、八.二)と言う歌もある。この歌も適度な粗食が愛と命を慈しむ気持ちを育て、ひいてはおめでたにつながる事を表している様に思えるのである。

1999.04

クョスコニョ    [1] 
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