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  海苔の神様、三浦昭雄先生
 

海苔の神様、三浦昭雄先生

三浦先生の生い立ち 
  
海苔の研究者として有名で、海苔の神様と言われた三浦昭雄先生が7月12日、心不全で亡くなられた。享年74。先生は昭和3年12月27日、秋田県山本郡八竜町鵜川(はちりゅうまちうかわ)に、先祖代々の大地主で町長も勤められた三浦政信氏の三男として、一卵性双生児の和雄氏と共に生まれた。お兄さんは農学、弟さんは林学に進まれた。生家は、日本第二の湖で地元では単に「潟」と呼んだ干拓前の八郎潟から僅か1キロほど北にあった。海水の混じる汽水湖の八郎潟では、島根県の宍道湖同様、しじみはいくら捕っても湧く様に捕れたそうだ。先生は幼少時から八郎潟で釣りをしたり、霞ヶ浦から導入された「うたせ船」と言う帆掛け船に乗って魚を捕り、ホルマリン漬けの標本を作るなどして研究された。日本海にも僅か数キロで、ギバサ(アカモク)、ワカメ、クロモ、モヅク(以上褐藻)、ケノリ(オゴノリ)、フノリ、ノリ(ウップルイノリ)、エゴノリ(エゴテンはその寒天、以上紅藻)等の海藻をよく食べる土地柄で(姪の工藤史子さん談)、恵まれた家庭環境と自然環境が、後の三浦先生を育てた様だ。

三浦先生との御縁 
 さて、先生と私のご縁の始まりは1992年3月で、東京水産大学で行われた日本藻類学会大会に先だち千葉県富津市で行われた海苔栽培業見学会であった。先生の退官の年で、大会会長を勤め、見学会も指導された。私は元々遺伝学出身で、ミカヅキモの生活環中のDNA量変化を調べ、ミカヅキモの細胞は従来の説の半数体(半量体)ではなく、2倍体(2量体)である事を見付けた。それで海藻の生活環にも興味が沸いた。海藻図鑑にはノリの生活環も載っていたが、減数分裂の時期がよく分からないので、ノリの勉強もしたいと思い、海苔栽培業見学会に参加した。集合場所のJR上総湊(かずさみなと)駅で待っていると、十数人が集まってきた。最後に、全身を黒のトレーナーに包み、毛糸の帽子を被った人がやって来た。私はJRの保線員さんかなと思ったが、それがとんでもない間違いである事にはすぐ気が付いた。と言うのは、その人はノリ生活環の詳細な模式図のプリントを参加者に配り、「海藻図鑑のノリの生活環の説明では、減数分裂の時期が定かになっていません」と仰ったのである。この方が三浦昭雄先生で、後程失礼をお詫びしたところ、むしろ喜んで居られた。

ノリの減数分裂の時期の発見
 海苔栽培業見学会の後、参加者全員が歩いて宿泊先の民宿に向かう途中、私は三浦先生に海苔の話を伺ったが、JRの踏切に差し掛かった時、先生は赤や緑の自然突然変異のノリと黒い野生型のノリを交配すると、キメラのノリが出来ると仰った。それで私は、遺伝学で有名なアカパンカビと同じ様な現象が起こるのかと伺うと、そうだと仰った。実は、ミカヅキモでもアカパンカビと本質的に同じ遺伝現象が観察され、私はミカヅキモの性決定遺伝子の染色体地図を決めていたので、とても興味深かった。先生は、ノリの減数分裂は、従来説の殻胞子が出来る時ではなく、殻胞子から葉状体が発芽する最初の2回の分裂である事を発見された。私はノリのキメラの出現こそが、減数分裂の時期を遺伝学的に完全に証明している事を、JRの踏切を渡りながら理解し感動した。しかし、藻類学者の間ではあまり理解されず、先生は孤独だったのである。以来先生は「私の仕事を分かって呉れて嬉しい」と仰ってとても喜ばれ、おつき合いが深まる事になったのである。

海苔の分類と品種改良 
 先生は海苔(アマノリ属)の分類学者で、新種を5種、新品種も多数発見された。私は先生の神奈川県藤沢市のお宅を二?三度お訪ねした。ある時先生は御自宅近くの江ノ島を案内して下さった。先生は美形の弁天様がお気に召しておられた様で、江ノ島で発見された新種をベンテンアマノリと名付けた、と仰ってニコニコしておられた。
 品種改良についても、先生は多大の貢献をされた。栽培品種として優れたオオバアサクサノリやナラワスサビノリを新品種として同定された。アサクサノリやスサビノリは雌雄同株で、一枚の葉状体に雄と雌の生殖器が出来るので、交配しても、子孫が自家受精の結果生まれたのか、あるいは他家受精なのか、見分けが付かなかった。ところが、互いに色の違うノリを使うと、自家受精からは単色の海苔しか生まれないが、他家受精では、例えば緑色型と赤色型の交配では、緑や赤の他、黒や黄色のノリも出来て、しかもそれらが1枚の葉状体の上でキメラになるので、自家受精のものと簡単に区別出来る。こうして、アサクサノリやスサビノリの品種改良は急速に進んだ。実際、緑色型と赤色型のスサビノリを交配して、黒くて収量と味が優れ、病気に対して抵抗性の強い暁光(あかつき)と言う品種を作られた(1989)。さらに、オオバアサクサノリ緑色型とナラワスサビノリ赤色型を交配して、新品種「あさぐも」を作り出された。両親の種が違うと、普通は子供が出来ないが、まれに種間雑種が出来る。しかし馬とロバの合いの子のラバの様に、雑種のノリは配偶子(子供)を作れない。普通はノリの葉状体が成熟して、配偶子である卵(造果器)や精子を作る際には、葉状体の縁の細胞がボロボロになるが、雑種のノリはいつまでも栄養成長を続けて細胞が壊れ難く、収量が多い養殖海苔「あさぐも」が出来たのである(東京農業大学、有賀祐勝先生談)。今日、我々が食べている海苔の多く、特に高級海苔は、先生が品種改良に関係されたものだそうだ。

三浦先生とお酒 
 日本人では三浦先生ほどお酒の強い人は希である。甥の三浦正隆氏によると、一族の方はみな酒豪で遺伝だそうだ。拙宅にも数回来て頂き、富山の寺なども御案内したが、少し飲まれるととても陽気になり、広い学問と深い哲学が露見(?)してとても楽しかった。しかし、飲み過ぎると失敗もされ、それがまた人間的魅力でもあった。以下は奥様から伺った信じられない様な話。
 先生は、地方から東京水産大学に久しぶりに訪ねて来られたお弟子さんのKさんと近くで飲まれた後、品川駅から当時住んで居られた大船の公務員宿舎の奥様に電話を掛け、K君が来るから酒の用意を頼む、と言われた。しかしすぐKさんが電話を代わり、「今、先生は私がお宅に伺うと仰ったけど、私は明朝十時から会議がありますので、先生を品川駅から電車にお乗せして、私は夜行で帰ります」と仰ったそうだ。それで奥様は今晩はお客様がないからと、お風呂に入っていると、宿舎の下に車が止まり、俄に騒々しい。「早く階段を上がれ!」と先生の声がする。奥様は、Kさんが予定を変更して来られたのだと思い、慌てて着物を着ているうちに、ドタバタと二人が客間に入り込んでいた。ところが、お客さんはKさんではない。奥様が「失礼ですが、お宅様はどなたですか?」と尋ねると、先生はお客さんの顔を見てびっくりし、「おめえは誰だ?!」と叫ばれたそうだ(先生は「あなたはどなたですか?」と尋ねたと仰っていたが)。何でもK'氏に依ると、大船駅のタクシー乗り場で待ってたら、酔っぱらいが絡んできて、一緒にタクシーに乗れと言う。断って乗らずにいたらスネを蹴飛ばされ、おまけに雲助まがいのガラの悪い運転手に、「早く乗れ!!」と一喝された。恐くなってタクシーに乗り込んだらこの宿舎に着いた。そのままそのタクシーで帰ろうとしたが、今度は家に上がれと言って、また怒られ、とうとうここ迄来てしまった、との事であった。それを聞いて、先生も奥様もビックリ仰天。夫婦で平身低頭して謝り、お茶など飲んで頂いた。そしたらK'氏が、「ご主人は学校の先生なんですか?」と妙な事を尋ねる。乱暴狼藉の後、奥様はとても「はい、そうです」とは言い兼ねて、「まあ、そんなところで・・・」とか何とか。「でも何故ですか?」と聞かれた。するとK'氏が言うには、タクシーの中で、お前は勉強が足りないとか、論文が少ないとか、大分怒られたそうだ。それで、またまた夫婦で平謝りに謝り、お土産に海苔を沢山差し上げ、タクシー代を渡してお引き取り願ったそうだ。沢山飲むと、腕白で我侭がきいた地主の坊ちゃん時代に戻られる様であった。
私が先生を評するのは甚だ失礼ではあるが、先生の研究は最初の目の付け所と最後の成果がとても素晴らしかった。それは、一方で自然を深く愛し、現場の養殖業者とも密に接して話をよく聞き、他方では不断の勉強と思索を怠らなかった故で、先生の評価は今後も高まるであろう。それは、先生の哲学「学問が正しければ、儲かる」の言葉どおり、海苔養殖業者の規模が、先生が研究されたこの50年で約20倍にも大きくなり、しかも大いに儲かっているのを見ても分かる。私事にわたって恐縮ではあるが、こうして拙文を連載して頂く事になったのも、元はと言えば三浦先生が竹中さんを紹介して下さったからである。先生の御冥福を心から祈る。合掌。

2003.08

クョスコニョ    [1] 
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