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三度の食事を二度に出来る話

奇特な実業家の話

 最近、ある実業家にお会いした時にお聞きした話であるが、今は不景気で苦しいので、三度の食事を二度にしてでも世の為、人の為に尽くしたいと仰っていた。お恥ずかしい話ながら私のような痩せの大食いは、三度の食事が四度になりかねないというのに、世の中には奇特な方も居られるものだとすこぶる感心した。そこで、今回はこの実業家の為に、三度の食事を二度にしても栄養不足にならず、ひもじくもならない、自然の中で行われている、もっともの話(??)をご紹介したい。

ミドリゾウリムシ
昨年の春、広島大学の大学院生の中原美保さんと言う、ミドリゾウリムシの研究者が我が家にやって来て、一緒に氷見市および射水丘陵から婦中町、そして砺波市の溜め池や湿地を採集して回った。そうすると、比較的貧栄養で水質が良く、接合藻の豊富なところでは、ミドリゾウリムシもよく見られる事が分かったのである。
 ちなみに、このミドリゾウリムシと言うのは、原生動物のゾウリムシの体内に緑藻のクロレラなどを取り込んだ共生生物である。顕微鏡で見ると、ゾウリのような形をし、たわしの様な繊毛をたくさん生やしたゾウリムシの体内に、緑藻のクロレラがまるで葉緑体の様な顔をしてたくさん入っている。ゾウリムシにしてみると、クロレラを食べて消化してしまえば、栄養として利用出来るのは1回限りである。ところが、クロレラを消化せずにお腹の中に生かしておけば、えさの少ない貧栄養の場所でも、日中お天道様が照ってくれさえすれば、ゾウリムシの捨てた炭酸ガスや栄養塩を有効に活用して、盛んに光合成をして、澱粉など結構な御馳走を体内で作ってくれる。おまけにクロレラは、ゾウリムシに必要な酸素までも用意してくれるのである。
 一方、クロレラにしても、元はと言えば、泳ぐための鞭毛も生えていない数ミクロンの丸くて小さいただの単細胞の植物だから、簡単に泳いで移動することが出来ない。それで、栄養とか日当りとか、また温度とかの環境条件が良い場所では爆発的に増殖して子孫を残せるけれど、1ケ所にかたまっていると、目立って他の動物に食べられやすいし、それにひとたび諸々の環境条件の内の一つでも悪くなれば滅びてしまう危険性がある。ところが、ゾウリムシの体内にさえいれば、増え過ぎて栄養がなくなっても、また、日陰になっても、栄養のある日当りの良い場所に連れて行って呉れる。それで、多少窮屈ではあるが、ゾウリムシの体内に潜り込んで、一緒にあちこち移動出来れば、大きく増えるチャンスはゾウリムシが分裂した時にしか無いけれど、結果的には安定していて、種の存続上都合が良かったのであろう。こう言うわけで、ゾウリムシもクロレラもどちらにとっても好都合なのである。
ところで、人間もこのように体内に共生してくれる藻があれば、晴れた日には日長一日ひなたぼっこさえしていれば、三度の食事を二度に減らせるかも知れない。そうなれば、そんなにあくせくと働く必要がなくなり、まるでミドリゾウリムシのように、食料の乏しい貧栄養の場所や時代でも優雅な気持ちで好きな事をして一生暮らせる訳である。人間に共生する藻を見つけたり、作り出せたら、これは大金持ちになること疑い無しである。
こんな話を読まれた読者の中には、大金持ちになるために藻の研究をしてみようと思われる方も居られるかも知れない。それとも逆に、私の暮らしぶりを見て、藻の研究だけは避けたいと思われる方もあるかも知れない。また、不謹慎な怠惰な考え方だとお考えの方もあるだろう。
 ところが、15億年ぐらい前の大昔に植物が発生したのは、元はと言えば今日の植物の祖先の細胞に、藍藻のように、光合成は行うけれど一種のバクテリアのような、葉緑体のような細胞が寄生して、ついには宿主と親密な関係で共生したのが始まりだった事が分かってきた。それは、葉緑体の形態とか、葉緑体や藍藻の遺伝子であるDNAの成分の四種の塩基の配列の順序など、いろいろなことを比較して得られた証拠から明らかになったのである。つまり、今日の植物の祖先が出来たのは、ミドリゾウリムシのような生き物が、不謹慎で怠惰な行動をした為に大革命が起こったのである。また、その結果、今日の植物の隆盛があり、そのお陰で我々動物の繁栄もあるのである。
面白いことに、広島大学の中野武登博士によると、全国各地のミドリゾウリムシを調べてみると、宮城県のミドリゾウリムシに共生しているクロレラと宿主のゾウリムシを分離すると、それぞれ形態変化もせずに元気良く成長する。ところが、広島のミドリゾウリムシはバラバラに分離しにくく、また分離しても、培養しているうちにクロレラの方の形態が変化しておかしくなってしまうそうである。つまり、共生関係が宮城の方はまだ浅く、広島の方は今日の植物細胞と葉緑体との関係に近付いて、お互いに切っても切れない関係になりつつあると考えられる。このように、ミドリゾウリムシは、大昔の植物の起源や発生を今日再現しているようで、とても面白い。
貧栄養の時代になった時のことを考えて、ミドリゾウリムシの生き方を参考にして、この研究をもっと進めて行けば、いつかは人間にも応用出来て、人間がミドリニンゲンになって、食料の乏しい苦難の時代を、三度の食事を二度にして、生き延びて行けるのではないだろうか。

1998.06

クョスコニョ    [1] 
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