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コンブの仲間、アラメとカジメ

精神文化は食物繊維
 21世紀に入り、世界平和と環境改善が進めばと期待している。しかし、期待は頻繁に裏切られる。富める国は益々富み、貧しき国はさらに貧しくなり、一国の中でも貧富の差が拡大し、治安が悪くなり、暴力、戦争、テロの治まる気配がない。マルサスが人口論(1798)で述べた様に、慢性的に増加傾向にある人口を抑制するには、疾病や飢饉の他に戦争が必要なのだろうか。だとすると、人口増加が止まるか減少し、資源と食料があまって来れば戦争は止むのだろうか。そうではない様な気がする。無制限な欲望を持ち、帝国主義的な生存闘争を繰り広げる限り、テロや戦争はやまないのではないだろうか。
 精神文化、物質文明、また科学や政治体制に対する好みは、個人や地域、民族、宗教に依って様々だから、グローバリゼーションと言って、アメリカ式に統一すること自体に無理がある。アメリカの社会や政治体制が最良ではない。むしろ、衆愚政治かも知れない。アメリカ人の多くは他文化をまるで食物繊維の様に消化出来ないし、理解しようとしない。母国語だから英語だけはペラペラだが、少し思慮の足りない、しかし、喧嘩が滅法強い金持ちのボンボンは世界中どこへ行ってもわがままが効く。その結果、東南アジアや中近東の経済や文化は大打撃を蒙った。そのアメリカに尻尾を振って迎合する国もあるが、これでは、消化できない食物繊維、互いに理解できない大きなしこりを全世界に広げる事にならないだろうか?

アイスクリームの原料、アルギン酸 
 食物繊維と言えば、我々には消化できない無用の長物だと考えられてきた。しかし、本当は胃腸の調子を整え、便秘を治し、美容にも良い。また、癌の発生を押さえ、免疫力を高める作用がある事も分かってきた。
 さて、陸上の緑色植物、水中の緑色藻類は光合成をしてブドウ糖を作り、さらに沢山のブドウ糖がつらなってデンプンの様な多糖類を作り、我々も消化出来る。しかし、細胞壁の成分としては、我々には消化できない食物繊維のセルロースを作って細胞を守っている。
 ところが、コンブを始め褐藻類では、セルロースの代わりに食物繊維のアルギン酸と言うヌルヌルした多糖類を作り、激しい波を柔らかく吸収するのに役立てている。アルギン酸は、マンヌロン酸やグルロン酸と言う糖が沢山連なり、デンプンの様にサラサラとした無味無臭の白色粉末で、水に溶かすと粘性が強く、接着剤とか乳化剤、アイスクリームなどの粘性付与剤としても使われる。アイスクリームが氷のように固くなく、ふんわりと柔らかいのは、アルギン酸のお陰である。また、アルギン酸は容易に金属と結合するので、鉄化合物を貧血治療薬として使ったり、その粘膜保護作用や止血作用を利用し、出血の治療に使われるなど、医療面での用途も広い。
 また褐藻類は、フコイダンと言う矢張りヌルヌルした硫酸化多糖も合成する。フコイダンは、ビタミンB、アルギン酸、β-カロテンなどと協力してガン細胞の発生や増殖を押さえる事も分かって来た。褐藻由来のアルギン酸やフコイダンは健康に大変良いのだ。

アラメとカジメ
 アルギン酸は、アメリカ西海岸ではコンブ類のマクロキスチス(Macrocystis pyrifera) から製造される。マクロキスチスはアジアでは見られないが、世界中に広く分布し、数十メートルにも達する大型海藻である。また、チリは南北4300kmに及ぶ海岸線を持つが、大型海藻のレッソニア(Lessonia sp.) が大量に打ち上げられ、収穫も容易で、アルギン酸の原料として、日本や中国の他、世界に輸出している。
 しかし、日本にはマクロキスチスやレッソニアの様な大型褐藻がないので、アルギン酸は同じコンブ科のアラメやカジメ、あるいは他のコンブ類から製造している。アラメやカジメは、日本列島や朝鮮半島の比較的暖かく、低潮線(干潮線)から20メートル位迄の深さの海で生育し、成長すると高さが2メートルを越す海中林を形成する。アワビ、サザエ、ウニなどの餌にもなる。アワビは1kg増えるのにアラメを15kgも食べるそうだ。アラメやカジメの海中林は生育した森林よりも光合成量が多く、漁礁としてばかりか、地球環境の維持にも重要な役割を果たしている。
 日本では、アラメやカジメが大量に採れて安く、美味しいので各地で食用とされた。面白い事に、カジメは土地に依って食べ方が違うようだ。例えば島根ではカジメと近縁のクロメの事をカジメと呼び、葉を米粒の様に細かく刻んで汁碗に入れ、具のない熱い味噌汁を注ぐ。するとヌルヌルしたアルギン酸が大量に出てきて、私の好物のトロロ汁となる。この食べ方は山陰の他に九州でも見られ、大分では本物のカジメを使っている事が分かった。この食べ方の起源は長崎県の対馬方面らしい。しかし、長崎の松浦ではカジメを細く短冊に切って酢醤油で食べる。これだとサラッとしてトロロにはならない。
 アラメやカジメ、クロメ、さらにホンダワラ類は田圃や畑の肥料としてつい最近まで利用された。また、ヨードやカリの原料、特に戦争中は爆弾の原料の硝酸カリを得る為に大量に収穫された。カリは、海水中には0.037%しか含まれないのに、コンブ類では生物濃縮に依って、乾燥重量の10〜20%も含まれるのだ。

磯焼け
 ところで、最近は磯焼けと言って、海藻が育たず、従って魚も居なくなって、海底が裸地のようになる現象が全国的に進んでいる。磯焼けの原因については、例えば地球規模の気象変化による海流の変化だとする説がある。誰のせいでもないと言う訳だ。しかし、緑のダムと言われる山林の大量伐採で川の水量が不安定になった。また、ダムの建設により、河川の水量は減少し、川底や河川付近から流れ込む栄養分に富んだ湧水は枯渇し、海藻の生育に必要な窒素やリンを始めとした栄養分が海に届かなくなった。反対に、大雨の時は裸山から表土が流出し、ダムの底に溜まったヘドロが大量に排出され、濁流が海底の岩を覆い、海藻の胞子が岩に着生して生育するのを妨げる。河口の汽水域(海水と淡水が混じる水域)の塩分濃度、栄養分濃度が一定せず、汽水域に住む海藻の生育に打撃を与えた。極端に言えば、河口と海岸線は総て汽水域の様なものであり、また、大型海藻の大部分はこの様な河口や海岸付近に生育するのだから、影響は甚大である。失って初めて分かった事だが、豊かな森林の役割が改めて見直されている。
 磯焼けは、人間の自然に対する理解不足が原因だった可能性が大きい。現代は異国間、異民族間、異宗教間で、お互いに食物繊維の様に理解し合えない世の中となり、戦争やテロが絶えない。また、人間と自然も理解し合えなくなってしまった。西洋流の自然科学は、実は不自然科学であり、不自然文明、不自然社会であったのかも知れない。結局、戦争も自然破壊も、人間の制限の無い欲望の結果という意味では同根であろう。
 現代のこの矛盾を解決するには、食物繊維が大事な要素として見直されて来た様に、消化不良を起こして互いに理解できなかった異国、異民族、異宗教、そして何よりも我々を取りまく自然の役割を再考し、理解する事が必要なのではないだろうか。

2001.02

クョスコニョ    [1] 
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