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  08.010.09 天才と大発見-1
 

アルキメデス

 天才はある日突然、まるで梯子を外した二階の大屋根に飛び上るが如く、大発見をする様に見える。しかし天才は、普通の人が当り前でつまらないと思って気にも止めない現象に、常々深く関心を持って観察し、それらの中からコロンブスの卵の様な簡単な原理をつかむ。だから、一見愚鈍に見える事さえある。複雑で難しい問題が生じた時には、まるで因数分解をするように、その複雑な問題を幾つかの簡単な因子に分解して組み合わせ、物事を合理的に解釈して解決する能力を持っている様に思う。

 例えば、古代ギリシャのアルキメデスは王様から純金とされる王冠を渡され、「この王冠には銀が混ぜてある様だ。王冠を壊さずに、どんな割合で銀を混ぜたか証明せよ」と命令された。とても困ったが、ある時お湯をいっぱい張った風呂に入ると湯が溢れ出た。その時、急に解決法を発見し、喜びのあまり裸のまま外に飛び出した、と言う話は有名だ。

 しかし、風呂から湯が溢れ出たのを見て、何故アルキメデスは解決法を発見したのだろうか?原因は三つあると思う。第一に、水を張った容器に王冠を入れて溢れ出る水の体積は、凸凹だらけの王冠の体積と同じ、と言う当り前の事を思いついた。第二に、物質は同じ体積でも重さが異なる。つまり、石と木の比重が異なる様に、金と銀の比重も違うと言う事にも気付いたのだろう。そして第三に、前記二つの当たり前の事を合理的に結び付けた。つまり、王冠の体積に金の比重を掛けると王冠が純金であった時の重さが計算できる。計算よりも軽ければ、その分だけ比重の小さい銀が混ぜてあったと言う訳だ。

 アルキメデスはよほど風呂好きか水遊びが好きだったのか、いわゆるアルキメデスの原理も発見した。彼は自分の体をはじめ、何でも水など液体中につけ、物体は押しのけた液体の重さの分だけ軽くなる事を発見した。つまり浮力である。風呂の中で自分の体が軽くなる事は誰でも経験しているが、浮力には気付かない。浮力など発見して何になるかと思われそうだが、浮力の原理を応用したからこそ、アメリカのペリー提督は水より重い鉄の船(黒船)で日本に来襲し、開国させたのである。もし日本人がアルキメデスの原理をもっと早く知っていたら、黒船などには驚かず、開国要求もはねつけて、いつ迄もいつ迄も鎖国していたか、それとも、もっと早く世界中を航海していたかのどちらかだろう。

 いずれにしても、もし我々がアルキメデスの原理を無視すると、我々は黒船のなかった江戸時代に戻らねばならぬ事になる。

 

ニュートン

 台風の最中、青森のリンゴ畑を友人数人と車で通った事がある。落ちたリンゴが沢山あるのを見て、農家の人は丹精込めて作ったのに気の毒だなと言う話が出たが、誰も万有引力には気付かなかった。ところがニュートンはリンゴが木から落ちるのを見て、万有引力の法則を発見した。この話も非常に有名で、私も小学校か中学校の頃に聞いた。しかし、何故ニュートンだけが万有引力の法則を発見出来たのかについての説明がなかったので、それこそ天才は一足飛びに二階の大屋根に飛び上がれるのかと思った。

 しかし後年、ニュートンの書、自然哲学(の数学的原理)を開いて見たら、彼はまず慣性の法則を発見した事が分かった。つまり、止まっている物体は外から力を加えない限り、いつ迄もいつ迄も止まっており、また、ある方向に進む物体も、空気抵抗も含めて、外から力を加えない限り、いつ迄もいつ迄も同じ速度で同じ方向に進む、と言う、言われてみれば当たり前の、しかし、普通の人は気付かない簡単な法則をまず発見した。こんな法則を発見しても偉くも何ともないし、この法則だけにとどまったとしたら、ニュートンは愚鈍にしか見えない。しかしある時、木の枝にいつ迄もいつ迄も止まっている筈のリンゴが急に落ちるのを見て、地球がリンゴを引っ張っている事、つまり、地球の引力を発見し、ついでに総ての物体が引力を持つという、万有引力の法則まで導き出したのである。

 もし、我々がこの万有引力の法則を理解しなければ、我々は、天体運動の理論も理解できないし、人工衛星も打ち上げられない。また、月や太陽の引力が原因で潮の干満が起こる事も理解出来ない。結局、我々の天文観・自然観は、現代の地動説の世界から中世の天動説の世界に逆戻りしなければならない事になる。

 

潮の干満と海藻の生活

 さて潮の干満と言えば、海藻の生活は1日2回づつ起こる潮の干満と密接な関係がある。日本海側は干満の差がせいぜい30センチ前後と小さいが、それでも干潮の時に磯に出て海面から露出した岩を見ると、海藻は種類によって生える深さが異なり、水平に帯状に同じ種類の海藻が生育している事がよく分かる(写真参照)。

 

写真の説明:富山県雨晴し海岸の干潮時の様子。手前の岩には頂上部にアオノリやアナアオサ、その下部には別の緑藻類が見られる。また、少し奥の岩には褐藻類の群落が見える。

 

 満潮の時の海面、つまり高潮線かそれより上部の波しぶきが飛んでくる飛沫帯には、お好み焼きとかたこ焼きの振りかけとしても重宝な、緑藻類のアオノリとかアナアオサ、あるいは紅藻類のイワノリ(ウップルイノリ)などが生える。

 高潮線と低潮線(干潮時の海面)の間は潮間帯(ちょうかんたい)と言い、1日に2度、海面から露出する。紅藻類のアサクサノリ、褐藻類のヒジキなどが生息する。海苔の神様、故三浦昭雄先生のお話では、アサクサノリは1日に2度、日干しになる必要があるそうだ。アサクサノリを養殖するには木の枝や竹を束ね、粗朶(そだ)と言う竹ぼうきに似た物を遠浅の海中に立てて置くが、これは既に江戸時代に発明された方法で、アサクサノリの生態を実に良く観察した、優れたアイディアである。また、ヒジキは何と言っても太平洋側の海藻で日本海側には少なく、青森県から石川県ぐらい迄は殆ど見られないが、島根県大田市で少しまとまった群落が浅瀬に露出していて、感慨を覚えた事がある。

 低潮線から下は漸深帯と言い、年中海中に没している。低潮線付近から漸深帯にかけての岩などには、褐藻類のワカメ、クロメ、アラメ、ツルアラメ、それに現在食用海苔の大部分を占めるスサビノリなども生育する。同じアマノリ属でもアサクサノリと違って、スサビノリは低潮線より下の海中でも生えるので、海中に網を張って大量に養殖出来て便利である。

 漸深帯や浅い海底には緑藻類のミル、褐藻類のコンブ類やホンダワラ類、それにモヅクがホンダワラ類に着いて生活している。白い砂の穏やかな海底には、能登半島が北限と言われる緑藻類のホソエガサが見られ、とても綺麗である。

 海藻の生活を観察する事は一見愚鈍に見えるかも知れない。しかし、近年は食用だけでなく薬用効果も注目される有用海藻を養殖するには、海藻全体の生態や生理を知る事がとても重要である。その様な基礎的で愚鈍に見える観察や実験から、アルキメデスやニュートンの大発見にも劣らない大発明、大発見が生まれる事を期待している。

2005年2月

クョスコニョ    [1] 
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